第3章 漆黒色の砂は、毒と嘯く※
カーテンから薄らと差し込む淡い光が夜明けを知らせる。
何度かまばたきをして少しずつ目を開くと、薄暗い部屋に視線をやった。
先の夜と同じクロコダイルの寝室、広いベッドに一人横たわっている。
身体を起こすと、怠さはあるものの熱く焦がれるようなしんどさは感じなかった。
「目ェ覚めたか?」
声のする方を向くと、寝室の入口に軽く身支度を済ませたクロコダイルが立っていた。
ゆったりとした首元のシャツにスラックスというラフな服装だ。
「とっくに出て行ったのかと」
「抱いた女を置いてく酷い男に見えるか?」
「あぁ、見えるな」
「元気そうで何よりだ。身体はどうだ」
まだ覚醒していない頭で、夜のひと時をぼんやりと思い出しながら口を開く。
「薬は抜けたみたいだが、少し怠い」
「当然だ、一晩で何度抱かれたと思ってる」
ベッドで身を起こしたままの私に近づくと、頬にキスを一つ落とした。
「忘れちまったなら、思い出させてやろうか?」
「遠慮させてもらおう」
「ついさっきまでイイ声で鳴いてせがんでたのに、すっかり元通りだな」
「…それは、薬のせいだ」
「クハハハ、可愛いところもあるじゃねェか」
そう、薬のせいで途中から正確な判断力が失われてしまったが、昨日ここへ連れて来られた時から違和感が続いていた。
以前のクロコダイルには感じなかった柔らかさに、こちらの調子が狂う。
解毒行為など別にしなくても良かったはずだ。
ただ私をものにしたかったのなら、わざわざ介抱などせず、無理矢理に手籠めにするチャンスはいくらでもあった。
単に魔が差しただけかもしれない。
少なくとも、敵として初めて会った時のクロコダイルは、昔の私と同じ目をしていた。
ただ己のみを信じる目。
アラバスタでの敗北、インぺルタウンでのルフィとの接触や頂上戦争が、この男の何かを変えたのだろうか。