第3章 漆黒色の砂は、毒と嘯く※
クロコダイルは私を横抱きにしたままベッドに腰掛けた。
体温は熱く呼吸は乱れ、身体が疼いてどうしようもない状態は続き、ただつらかった。
「随分とつらそうだな」
クロコダイルは私の頬を優しく撫でた。
それだけでびりびりとした快感に襲われ、思わずクロコダイルの腕をぎゅっと掴む。
「…ッ…すまな、い」
「……」
クロコダイルは徐に葉巻を灰皿に押し当てた。
「お前を楽にしてやりてェ」
「…?」
「薬のせいとは不本意だが、俺も我慢の限界だ」
「…ふッ!?」
まだ肩で呼吸をしていた私はベッドに押し倒され、唇を重ねられた。
突然のことに驚くも、触れられる箇所全てに反応してしまう今、どうすることもできない。
鍵爪は両腕を押さえつけ、もう片方の手は私の頭を抱えていた。
その手は次第に、ドレスの上から身体の輪郭をなぞっていく。
クロコダイルが深く口づけをする程に、敏感な場所に触れる度に、びくんと身体が跳ねる。
舌を絡み取られる感覚に零れる声も、全て貪られていく。
やっと唇を解放された時には、全身の力が抜けていた。
「抵抗しねェのか?」
見上げる私の、虚ろな目に入った光景。
タイを緩める手元には、シンプルなデザインのカフスが光る。
オールバックを少し乱した髪が、目じりの横で揺れる。
拒否できる余地を匂わせながら、これからされることを想起させる、なんて艶やかな仕草。
こんなものを見せつけられて、否と言える女がいるだろうか。
ただ、不本意とはその通りで、薬の効力によるつらさから解放されるには、昂る熱を吐き出すしか手はないと考えていた。
絞り出すように発した声は、上擦っていた。
「…解毒を、してくれないか」
クロコダイルは、満足そうにも余裕がなさそうにも見える表情で、ドレスの留め具を外していく。
「悪ィが優しくしてやれる保証はねェ」
そう言いながらも、クロコダイルはできるだけ優しく触れ、気遣いの言葉を投げかけてくれたように思う。
それでも抑えきれない欲情を激しく打ち付けられる頃には、全身を駆け巡る快楽をどうすることもできず、薄れゆく意識の中でただ身を委ねるしかなかった。
媚薬はきっかけにすぎない。
クロコダイルの漆黒色の毒が、私の身体に染みつき蝕んでいく。
解毒と言っておきながら、これでは毒を注がれたようなものだ。
この男の雄々しい色気は、毒そのものだ。