第3章 漆黒色の砂は、毒と嘯く※
しかし、私を受け止めたのは目の前の男ではなく、クロコダイルの腕だった。
「飲みすぎたみてェだな、介抱を手伝ってくれるか?」
穏やかな口調で男に協力を求めるクロコダイルの目は、笑っていない。
私を片腕で抱え、男は血の気の引いた顔のまま外に連れ出された。
「俺のもんに手ェ出すとはいい度胸だな」
ギリギリと顔を掴まれた男は、命乞いをする間もなくミイラにされてしまった。
男の衣類からはいくつかの薬が見つかった。
「コイツは薬のバイヤーだ。お前を売るか何かしようとしたのだろう」
おそらく男が飲み物を受け取った時、薬を盛られたのだ。
軽い眩暈がする以外は、身体が熱かった。
発熱とはまた違う気がする、どうしたことだろう。
「龍騎士の身体にも効く薬があったみてェだな」
その時、感覚が研ぎ澄まされてしまったみたいに、クロコダイルに軽く触れられただけで声が出そうになる程びくりとしてしまう。
この異変はクロコダイルにも伝わっただろうと思った。
「…ちょうど仕事は終わった、戻るぞ」
クロコダイルは私を横抱きにして帰路につく。
薬の正体はおそらく、媚薬だ。
*
「お前は強いが故に、油断する癖がある」
クロコダイルの所持するビルへ戻ると、そのまま寝室へと足を運んだ。
「酒や毒の類は効かねェ身体、腕力もそこらの男じゃ敵わねェ。油断するのも無理はないがな」
まだ眩暈のする身体はだいぶ火照ってきていて、クロコダイルに預けた身体は心地良さを感じていた。
「まぁさっき盛られた薬みてェに効力が促進するもんもあるようだが」
クロコダイルも、もう薬の正体に気付いている。
確かに、チョッパーにもらう治療薬の中には、仲間より少量で効力を示す類もあった。
今回の薬…媚薬もそれに該当するのだろう。
「頂上戦争後、手負いの弱ったお前を手に入れようと、男どもが群がってこなかったか?」
「それ、は…」
「お前を落とせなくとも、身体だけでもと思ってる男は腐るほどいる」
「……」
「xxxx、今のお前は狙われやすい。だが雑魚や下衆の餌食にはなるな。お前があの弱ェ男の手に落ちていたと思うと虫唾が走る」
クロコダイルの目は怒りを孕んでいるように見えた。