第2章 大人になって①
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「けっ…こ…ん?」
緑谷は目を丸くし、一体なんのことを言っているんだという表情をしている。爆弾発言をした爆豪本人は至って真剣な目をしているが。
「ちょっと待って、何言ってるのかっちゃん。誰と、誰が?」
両手を顔の横でブンブンの振りながら、あくまで自分は違うけどという意味を込める。
「てめえだよ!カスが。誰とかは知らんが」
「?!誰に何を聞いたのか分からないけど、誤解だよ!!僕、交際してる人もいないのに結婚なんて…」
長い付き合いをしているクラスメイトだから分かる、こいつは嘘をついていない。嘘をつくとき、緑谷は頭をかきながら少し俯く癖がある。俺でもわかるくらいだから、爆豪はこの癖を当然知っているだろう。
爆豪は少し驚いた後ビールを飲み干し、俺に次のビールを請求する視線を飛ばしてきた。
店員に声をかけ、ビールを2、3杯注文する。
「ほんとなんだろうな、それ」
赤い瞳が、緑谷をしっかりと捉える。
「ほ、ほんとだよ。かっちゃん。」
真剣なムードに、徐々にアホになりつつある上鳴が雰囲気を変えようと発言する
「ほぉい!ビールおかわりでーすっ!!」
勢いよく置かれたビールは、少し泡がしぼんできつつあった。置くタイミング見計らっていたのだろう。アホなくせに、変なところ気がきく奴だ。
「俺もびっくりしちまったぜ〜、結婚する時は呼んでくれよな!」
緑谷の肩にポンっと手を置くと、もちろんだよ!と笑ってくれた。
「まあまずは恋人からだな」
なんで言い合ったりしながら。
なんか気まずい雰囲気にならなくてよかったと胸を撫で下ろしたところ、爆豪がスクッと席を立った。
「こいつ、送ってくるわ」
ポケットから財布を出すと、かなり多めのお金を幹事の俺に差し出した。
「お、おお…って、金多いぞ、ちょいまち…」
お釣りを取り出そうと小銭袋を開けると、すっと取り上げられフタを閉められる。
「いい。こいつの分もある。お釣りは会計の足しにしろ。」
そう言い放つと、小銭袋を俺の頭の上にポンッと置いて、ただの重りのように機能していない麗日を肩に担いだ。
「おお、ありがとな!気をつけて、また誘う。」
「おう。」
ちゃんと麗日の荷物も回収していくあたり、さすがだと感心しながら見送る。