第2章 大人になって①
「飲み過ぎだろ、オメェ。」
半分呆れ気味に爆豪がつぶやくが、お茶子の耳には全く、そう全く届いていない。彼女は今、病的に自己本位である。いわゆる酔っ払いの称号を堂々の金賞授与可能なレベルで。
「…グスッ…ヒック…」
「はぁ?!」
今度は何に思いを高まらせたのか、グスッグスッと丸い瞳に涙を溜めながら泣き始めたではないか。さすがの爆豪も、これには動揺を隠せない。そこに、先ほどお茶子が切島に注文したビールが到着した。
お茶子が突然スクッと立ち上がったかと思ったら、正面のテーブルから隣の席へ移動してきた。ビールに手を伸ばそうとするので、半分くらい飲み干した自分のビールとすかさず交換する。なんなら、からのジョッキでもいいくらいだろうが、生憎近くのテーブルにないのである。
「…何勝手に泣いてんだよテメェ、なんなんだ…ホントに…」
「結婚…」
苛立ちを込めて発した言葉に対し、思いもよらないワードがお茶子の口から出てきたため、再び動揺する。
「するんやて。」
その一言で全てを察した爆豪は、やはり頭の回転が良いのだろう。
デクが結婚?
普通っちゃ普通だろうが、あの慎重童貞クソナードにしては早すぎねえか?
なんて考えていたところに、突然お茶子からの鋭い視線を感じた。泣き始めたかと思ったら、今度は怒るとかめんどくささの極みである。
「全部、ばくごぉくんのせぇやぁあ!!!!」
今度はポカポカと爆豪の背中を叩き始めた。
「テメェ、いい加減にしねぇとブッ殺すぞ?ア?なんで俺のせいなんだよ!!!」
自分の目の前で、自分がどうしようもないことで、自分の気になる相手が、感情的になって振り回されている、という事実にイライラが募っていく。
「しまっておこう、なあ、ばくごぉくん。」
今度は少し深刻な顔をした後に、俺の肩をポンっと叩いてみせた。なめてんのかこいつ?
「しまっておくって、決めとったんになぁ」
またもや文脈がガッタガタのよくわからない言葉を発し、1人で会話した後にお茶子は夢の世界にフィードアウトしてしまったらしい。
「あ?何寝てんだ、おい、おきろ、おい!丸顔!!」
揺らしても、もちミテェな頬をつねっても微動だにしない。
俺の肩を枕にしやがって…起きやしねえ、本当になんだこいつは。