第2章 大人になって①
あかん、このままこのテーブルにあったら餌食にされてしまう!!という謎の女の第六感が働く
「あ、あかんわ〜ちょいトイレ!」
あ、逃げたな!という耳郎の言葉を背中に受けながら、廊下で一息つく。と、いっても、自分には特にスキャンダルもないのだが。
席に戻ったら、何事もなかったかのように振る舞おう!そしたらきっと大丈夫だ。
そう思いながら、言い聞かせながら、ヒーローの写真を眺めて廊下を歩いた。
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「麗日逃げたな〜、怪しい」
うしししっと悪い笑みを浮かべる芦戸に、みんなが頷く
「まあお茶子ちゃんも、噂はあったもんね」
「やっぱり緑谷のこと、まだ好きなんじゃない?」
「でもでも!!!麗日、綺麗になってたから…もしかして今付き合ってる人いるとか?」
キャーーーッ
「帰ってきたら、尋問タイムだね☆」
お酒も入り、謎のテンションで悪魔のような笑みを見せる女子達。
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女子のテーブルはピンクのお花が飛んでいるかのようにきゃっきゃっと盛り上がっていた。
「女子盛り上がってんな〜」
上鳴が親指で彼女たちのテーブルを指しながら呟く。
それに特に相槌を打つわけでもなく、ビールをくいっと飲んだとき、丸顔があからさまな演技で席を立った。おおかた、自分に話が振られないようになんて考えたんだろうけど…アホかあいつは、逆効果だろ。
なんてことを考えていると、女子達の会話が妙に鮮明に聞こえて来た。俺が無意識に聞き耳を立てていたのかもしれんが。
「まあお茶子ちゃんも、噂はあったもんね」
「やっぱり緑谷のこと、まだ好きなんじゃない?」
「でもでも!!!麗日、綺麗になってたから…もしかして今付き合ってる人いるとか?」
心臓が、見えない何かにぎゅっと閉められた、気がした。
「ばくご?」
ハッと気がつくとこちらを覗き込んでいるクソ髪を認識した。
「どした?飲みすぎたか?ぼーっとして」
「うっせ…なん、でもねェ。」
そう言ってまた一口ビールを飲んだ。
全部流れてっちまえばいいのにな、なんて柄にもないこと考えながら。