第29章 敵は味方のふりをして近づいてくる【義爛/シリアス】
『……知ってたんだ、私の事』
「そりゃあな、一応人材紹介みたいなこともやってるし良い人材には目を付ける……どうだ?俺があんたにぴったりな仕事紹介してやろうか?」
『………ヴィラン連合、とか言わないでよ?』
「お、察しがいいね」
『パスよ、パスパス!私はあくまでもヒーロー!!
同業者に嵌められてあいつらのことは恨んでるけど、ヒーローが好きな事に変わりはないからヴィランなんかにはならないわ』
「そっか、そりゃ残念だ。」
ケラケラ笑いながらタバコをふかす義爛と名乗るおっさん。
私は自分のグラスの中で溶けた氷水と化したものを一気に喉に流し込む。
『…マスターお会計!』
「いや、ここは俺が払おう。」
『どういうつもり?私初対面の人に貸しを作るつもりなんかさらさら無いんだけど?』
「なぁに、貸しなんて大層なもんじゃない。いわばこれは前金ってヤツだ。」
『前金?』
「そう、ヴィラン連合が嫌だっていうんならあんた、俺のボディーガードにならないか?
俺は裏の世界じゃそこそこ名の通ったブローカーでな、命狙われるような事もあるんだよ。
武器や装備は経費として俺が出す、一人でヴィジランテなんかやってるよりよっぽどコスト的にもいい話だと思うけどどうだ?」
何かを企んでいるような彼の笑顔。
私は、迷う事なくこう言った。
『悪くないね、良いよ。やってあげるよ…ボディーガード』
義爛はタバコを灰皿に押し付けて消す。
「交渉成立だ。楓」
そう言って私に手を差し出し握手を求めてきた。
私は黙ってその手を握る。
こうして私は、義爛に拾われて義爛のボディーガードとして彼と一緒に暮らす事になった。