第29章 敵は味方のふりをして近づいてくる【義爛/シリアス】
……とまぁ、ここまでが私の昔話。
あれから一年、あんな騒動があったせいか普通の仕事には付けなくて転職活動はかなり苦労したのち断念した。
実際薬物を使用していなかったとしても私のカバンから薬物が出てきた、所持していたということに変わりないと警察に判断されてヒーロー免許も剥奪された。
私はもう、表の世界でヒーローとして生きていくことはできなくなった。
ヤキモキして前に進めない歯痒さを私はバーで酒の力を借りて今日も流し込む。
『マスター!もう一杯!!』
「お客さん、飲みすぎだよもうやめときなって」
『うるさいなぁ〜、仕事見つかればこんなヤケ酒なんかしてないっての!だいたいねぇ…ひっく、私はヒーローとしてまじめにやってたんだよ?
それなのに先輩ヒーローに嵌められて……
あれ絶対私が給湯室からトイレに戻って落ち着き取り戻してる間にあいつらがコカイン仕込んだに決まってんだよ
全く警察もヒーローも無能!無能すぎるっ!!
私今ヴィジランテやってんだけど、どうマスター?
バーなんか経営してたら面倒な客の1人や2人来るでしょ?
私をボディーガードとして雇ってみない?』
マスターは困った顔して「いやぁ〜」と言ってたが
それを聞いてた隣の男が大笑いしていた。
『……なぁに盗み聞きしてんの、おっさん!』
「ははは、盗み聞きか?こんな大声で喋ってて盗むもなにもねぇだろ?」
隣の男がニカっと開く口の右前歯は一本欠けていて腸のようなマフラーを巻いている。
「面倒な客の1人や2人って言ってたか?そりゃ今のあんたのことだろ?」
男が私を指差してそういうとマスターは右手を口に当ててブフゥ!と吹き出した。
『喧嘩売ってんの?』
「いやいや、喧嘩なんか売ってねぇよ。もっと良いもん売ってる」
そう言ってタバコを加えて拳銃型ライターで火をつける。
スパーッと煙を吹き出した後私の目を真っ直ぐに見て、男はこう言った。
「俺は義爛、ブローカーだ。お嬢さん去年違法薬物疑惑で世間を騒がせた高橋楓だろ?」