第27章 嘘つきヒーロー【切島鋭児郎/悲恋】
『ありがとう。私も鋭ちゃんと話してる時が一番生きてるって感じられるの鋭ちゃん…大好きだよ。今までありがとう』
コンコンと控えめなノックが聞こえたかと思ったらどうやら手術の時間になっていたらしく私は看護師さんが用意したベッドに寝転び鋭ちゃんと別れた
ーーーーこれが楓との最期の記憶
あのあとバイトに行って深夜まで働いて寮に寝に帰った。
翌朝、眠い目をこすって学校へ行く準備をしていると病院から電話があった。
【…昨日の手術は成功したのですが今朝、看護師が病室を見に行った時にはもう…高橋楓さんは息を引き取っていました。】
「……楓が、死んだ?」
目の前が真っ暗になった。
自分の身体の一部が無くなったような喪失感。
気づいたら俺は走り出していた
楓のいる病院目掛けて今までこんな早く走れたのか?と驚くほどの速さで駆け抜ける。
そして、看護師さんに楓のいる霊安室へと案内された
白装束で顔に白い布をかけられていた。
顔の布を退かすとまるで今にもその目が開かれそうな程綺麗な楓の顔。
ーーー行かないで、そばにいてーーー
ーーー鋭ちゃん…大好きだよ。今までありがとうーーー
昨日の楓の言葉が頭から離れない。
明日も病院に行けば会えると思っていた。
でももう楓はいない…
あの時、バイトすっぽかしてでも楓のそばにいればよかったと激しく後悔した。
そしてそれ以上に後悔したことが…
「楓に…好きって伝えればよかった……ずっと好きだったんだ。楓…俺はお前にずっと嘘ばっかついてた!
本当のこと伝えるのが怖かった!その程度の男だと思われるのが怖かった…」
目尻から頬を大粒の涙が伝う。
そしてそれは楓の頬に零れ落ちる。
「…お前は俺のそんなくだらないプライドも見栄も全部分かってたんだろうな。仕事は正直しんどかった。居酒屋と工事現場とファミレス掛け持ちしてたんだぜ?そりゃ授業寝ちまうよ…
けどお前の笑顔見ると頑張れたんだ…こんな嘘つきヒーローお前のヒーロー失格だよな…だから最後は本当のこと言うよ
楓、大好きだ。世界で一番愛してた!」
楓に嘘つきな俺の本当の気持ちを込めてキスをした。
END