第27章 嘘つきヒーロー【切島鋭児郎/悲恋】
「悪ぃ!楓、携帯置き忘れて来ちまった!!」
『今届けようと思ってたとこ』
「そか、さんきゅ!」
『鋭ちゃんに届けようとしたら電話きたから咄嗟に出ちゃった…ごめんね』
そう言って携帯を渡す。
鋭ちゃんは受け取った携帯を操作する。
「気にすんな!…っと、高木さんか〜なんて言ってた?」
『今日のシフト変更の連絡だったよ。深夜2時までの人が急に1人辞めたから今日深夜2時までお願いしますって…』
「…マジか、しゃーねぇな!」
『鋭ちゃん…深夜2時までって何のバイトしてるの?』
「中学時代の同級生の家が居酒屋で、そこで働かせてもらってんだ!」
『……私の治療費のため?だったら辞めて、鋭ちゃん身体壊しちゃうよ。ヒーロー科の授業でただでさえヘトヘトなのに…』
「さっきも言ったろ?俺は疲れてなんかねぇから心配すんな!これも漢を磨く特訓だ!タフじゃねぇとヒーローにもなれねぇしな!!
お、もうこんな時間!バイト遅れちまう!じゃあな」
鋭ちゃんは廊下を全速力で走る。
すれ違った看護師さんに廊下走らない!なんて怒鳴られすんません!って返す声が聞こえてくる。
クスクスっと笑みがこぼれる。
鋭ちゃんは、嘘つきだ。
本当は心配すんななんて言えるほど余裕なんてない。
本当は疲れてるのに疲れてないっていう。
本当はお金がないのに金の事は俺に任せろという。
鋭ちゃんは、自分と私に嘘をつく。
鋭ちゃんは、嘘つきなヒーローだ。