第21章 もしも願いが叶うなら…【轟焦凍/切甘裏夢】
俺がハンカチで楓の涙を拭っているとスタッフがきた。
机と椅子が中央に置かれている舞台を指差してそろそろスタンバイ終わりますので舞台にある椅子に座ってくださいと言われた。
「事務所からの急な連絡に対応できるようこの後は彼女を俺の隣に置いておきたいんですが、大丈夫ですか?」
そう言ってショートは私の肩に手を回す。
「そうですね、イベント中だとショートは事務所からの連絡の対応が難しいですからね…分かりました。では、椅子をもう一脚…
『わ、私はショートの後ろに立ってますので大丈夫です。』
「そうですか、ではそのようにお願いします。」
スタッフが去った後俺は楓の親指だけを握る。
「行くぞ」と言ってそのまま舞台へ上がる。
さっきとは勝るとも劣らない黄色い歓声と共にポツポツ聴こえてくるのは…
「何あの女…」
「なんでショートと一緒に出てきてるの?」
楓に対する女の嫉妬。
サイン会も握手会もスムーズに終わって残すはパーティー形式のディナーのみ。
司会のスタッフがマイクでディナーの開始を促す。
【これよりディナータイムに入らせていただきます。お食事は私共スタッフがファンの皆様のところにお運びいたします。そして、ドリンクはヒーローショートの髪色に合わせ赤ワインと白ワインのみご提供致します。ワインを持ったショートが写真撮影、握手等のファンサービスをしながらお届けいたしますので皆さん存分に楽しんでいってください。】
司会が言い終わると同時に会場内は歓談モードになった。
楓はトイレに行くと言って俺の側を離れたっきり、ディナータイムが終わるまで戻ってこなかった。
イベント中は忙しくて楓に連絡できなかったから、イベントが終わってすぐ楓に電話したら車に乗って待ってると言っていたから慌てて身支度を整えて駐車場に向かって車に乗り込む。
「楓、何でディナータイムで帰ってこなかったんだ?」
『………ごめんなさい。疲れて控え室で寝てました。』
「そうか、今日はすまなかったな。お前を連れ回した」
『いえ、これも仕事ですから』
そう言って楓は作った笑顔を顔に貼り付けていた。