第6章 トロイメライ
寝室へ移動しベッドに上がると、翔が立ち止まった。
「どうした?来いよ」
「いいの?今日も。寝づらくない?」
「翔は?寝づらい?」
そう聞くと首を横に振った。
「だろ?俺も寝づらくないよ。
変な気使わなくていいから…ほら」
布団を捲った状態で呼ぶと、嬉しそうに潜り込んできた。
「あったかい…」
俺の胸元辺りで翔が呟いた。
「寒かったのか?」
「ううん…寒くないよ。
でも智の傍にいると、あったかい」
「そうか…」
目の前の翔の頭に手を伸ばした。
軟らかな髪を鋤くように撫でると、洗い立てのシャンプーの香りが鼻を擽る。
同じモノを使ってるのにな…なんでこんなに、いい香りに感じるんだろう。
「智…」
「ん…」
翔は顔を俺に向けると微笑んだ。
「ありがと…」
「なにが?」
「ここに来られて…智と一緒にいられて良かったなって…
だから『俺のところに来い』って言ってくれた智には、本当に感謝してるんだ。
でも俺、智に何も恩返し出来てないから…」
「そんなこと考えるな…
お前が少しでも幸せを感じてくれてるなら、それでいい」
「俺、幸せだよ?
こんなに温かい気持ちで過ごせる日が来るなんて、思ってもみなかった」
初めてあった時とは比べ物にならないくらい、穏やかな表情を浮かべる翔。
「お前がそう言ってくれることが、最高の恩返しだ」
翔は笑顔を見せると、静かに目を閉じた。
「おやすみ…智」
「おやすみ、翔…」
翔の願いが叶うように…
そしていつか、俺の気持ちが翔に届く日が来るように、想いを込めて子守唄を歌う。