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きみに届けるセレナーデ 《気象系BL》

第6章 トロイメライ


昨日までは何ともなかったのに、なんだって突然…

「智?大丈夫?」

「えっ?あっ、大丈夫…少し冷めてたし」

「そう?よかったぁ…智の手、火傷したらどうしようかと思った」

ホッと息を吐く翔…本気で心配してくれたんだな。

「ありがと、でも大袈裟だよ。火傷したって大したことないだろうし」

「だって…」

翔が視線を伏せた。

「どうした?」

「…初めて出来た好きなものだから…」

好きなもの?まさか…

「…なにが?」

ドキドキしながら答えを待つ。

「…智の手」

「俺の手?俺の手が翔の好きなものなの?」

「うん。だって美味しいご飯作ってくれるし、カクテル作る手も格好いいし、それに…」

「それに?」

「ううん、なんでもない」

翔はハニカミながら首を横に振った。

それにしても、翔が初めて好きになったものが俺の手とはな。

嬉しいのは嬉しいけど
どうせなら『智の手』じゃなくて『智』って言って欲しかった…

ちょっと期待した自分が恥ずかしい。

しかも理由が、美味しいメシを作るからって…

俺、本当に翔の親みたいだな。

そうありたいと思ってたけど
今はちょっと複雑な気分。

それでもまあ、翔に好きなものが出来ただけ良かったのか…
今はそのことを喜ぶべきだな。
『手』とは言え一応俺だし?

「さあ、急いで作るぞ。魚が焼けちまう」

「うんっ」

翔の頭に手を置くと、翔が嬉しそうに笑った。

「やっぱり好きだな…智の手…」

「変な奴…どうせ好きになるならもっと他のもの好きになれよ」

「ふふっ、いいんだよ」

楽しそうに笑う翔。

そんな翔を見ているだけで、俺は幸せな気分になる。

ああ、なんだそっか…
翔の事を好きだと自覚したのは今日だけど
きっと随分と前から俺は、翔の事を好きになっていたんだな…

あのボロアパートで翔を一人きりに出来ないと思った時は、間違いなく庇護欲だった。

でも、一緒に暮らしていく中で
こいつの表情が増えていくことに、この上ない喜びを感じていたのは
俺にとって翔が『特別な人』になっていたからなんだ。
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