第6章 トロイメライ
「智、今日の朝ごはんは何にするの?」
翔が冷蔵庫のドアに手を掛け俺に聞く。
「アジの干物買ってあるからそれと、卵焼きでも作るか」
「旅館の朝ご飯みたい」
翔がクスッと笑った。
「いいだろ?これぞ朝飯の基本だよ」
「じゃあ味噌汁は豆腐とわかめ?」
「だな」
クスクスと笑いながら、翔は冷蔵庫から必要な食材を取り出していく。
俺は鍋にお湯を沸かし、味噌汁の準備に取りかかった。
翔は味噌汁の具材を切る。
アジをグリルに入れて火を着けると、今度は卵を割ってかき混ぜた。
「卵焼きは甘いのがいい?それともだし巻き?」
翔に聞くと『ん~』と小首を傾げ悩んだ後
「甘いのっ」
と笑顔で答えた。
笑顔が増えて来てるのは良いことだと思っていたのに…なんだか今日の俺は落ち着かない。
なんで翔の笑顔にイチイチ反応してるんだ俺の心臓は?
「智?どうしたの?出汁、そろそろいいんじゃない?」
動きの止まってた俺に、心配そうに翔が聞いてきた。
「あっ、やばっ」
慌てて鍋を掴み、片手にざるを持って濾そうとしたら、勢いよく注いでしまい、手に出汁が跳ねた。
「あっちぃっ!」
「智っ⁉」
驚きの声を上げた翔が、俺の腕を掴みシンクまで連行する。
蛇口を捻り水を出すと、俺の手を取り出汁を被った場所を探す翔。
赤くなった場所を見つけて、そこに集中的に水を当てる。
「少し赤くなってる、大丈夫?」
心配そうに下から覗きこまれ、またまたドキンとなる心臓。
あ~マジか、勘弁してくれ…
こうなると嫌でもわかってしまう自分の気持ち…
ヤバい予感は当たってしまった。
どうやら俺もこいつに惚れたらしい…