第5章 子守唄
相葉さんは帰るときも、翔に声を掛けて帰っていった。
「いい返事待ってるね」
優しい笑顔を向けられても翔は複雑そうな表情を見せている。
閉店後、翔がフロアーの片付けをしてるときに、ニノがグラスを洗ってる俺のところに来た。
「翔の話聞いた?」
「なんの話?」
「相葉さんから食事に誘われてたけど?」
「いや、本人からは聞いてない…」
「そうなんだ。聞いてあげないの?」
「何を?」
「だから翔の話…」
「翔が話したいなら聞くけど、俺から聞くのおかしくないか?」
「なんで?」
「子供じゃないんだし、他人の俺が口を挟むことじゃないだろ」
「はぁ…他人ねぇ…」
ニノに軽く溜め息を吐かれた。
なんだよ…俺、なんか間違ったこと言ったか?
「それって見離した…とかではないんだよね?」
「なんだよ見離すって、そんな訳ないだろ。
大体お前が言ったんじゃないか、相葉さんなら安心って」
「じゃあ、もし翔が智の家を出て相葉さんのところに行くって言ったら智は認めるの?」
「翔がそうしたいって言うなら認めるんじゃないか?」
「それが翔の本心じゃないとしても?」
「翔の本心じゃない?
なんで本心でもないのに、そんなこと言うんだよ」
「はぁ~」
ニノが今度は大きな溜め息を吐いた。
「あのさぁ、大分俺たちになついたとはいえまだ三ヶ月だろ?
完全に心を許してるわけじゃないし、信じきれてもいない。
でも智にだけは本当の自分を見せ始めた。
今、翔が一番頼りにしてるのは、間違いなく智だってことわかってるっ⁉」
「う、ん…」
ニノの勢いが凄くて、なんだか圧倒される。
「家に置いて貰ってることだって、あの子のことだから負い目に感じてるはず…
智に『お前の好きにしろ』って言われたらきっとあの子出ていくよ?
翔にしてみれば、捨てられるのと同じことじゃないのかな?
一番信頼してる人に捨てられたと思ったら、翔がどうなるか考えてみて?」