第4章 子犬のワルツ
「もっと聴いていたいけど、そろそろ開店の時間だよ」
ニノがそう言うと翔は慌てたように椅子から立ち上がり、ピアノの蓋を閉めた。
「すみません、すぐに着替えてきます」
「すぐにはお客さん来ないだろうから慌てなくても大丈夫だよ」
「はい。でもなるべく早く戻りますね」
翔は置いてあった掃除道具を手に持ち、事務室に向かった。
「作戦成功したね」
ニノが俺に向かって微笑んだ。
「おう…でもほんとに上手いんだなあいつ。
弾いたことない曲をあんだけ弾きこなすなんて」
「あれくらいなら朝飯前でしょ。
月光だって俺は潤の為にしょっちゅう弾いてるけど
翔はいきなり弾いてあの出来映えだよ?」
「月光?あの曲、月光っていうんだ」
「正式名は違うけど、通称は月光って言うんだよ」
「へぇ~初めて知った」
「智、クラッシックに興味ないもんね」
「聴くのはそんな嫌いじゃないよ。
ただクラッシックに限ってじゃなくて曲名とかあまり気にしないし」
「にしてはさっきの曲よく知ってたよね?」
「あ~、母ちゃんが、子供の頃、子守唄代わりによく歌ってたんだよね」
家の母ちゃんは歌うのが好きだったのか、よく歌を歌ってた。
だから俺も昔は母ちゃんと一緒に口ずさんでたんだよな…
だからさっきもついつい歌っちゃったんだろし。
「思い出の曲なんだ」
「まぁ、そう言われるとそうなんだろうな」
「歌詞は覚えてないの?」
「所々は覚えてるけど、全部は覚えてないな」
「歌詞調べて歌ってあげれば?翔に」
「何でだよ?」
「だって子守唄だったんだろ?
だったら子供に歌ってあげればいいじゃん。
ハミングだけであんなに嬉しそうだったんだよ?
ちゃんと歌ったら、もっと喜ぶんじゃないの?」
そうかなぁ…ほんとに翔が喜ぶなら歌ってもいいんだけど。