第1章 プレリュード
「二人同時はないって、お前がいるじゃん」
「だから、俺は特別枠なの。
『俺の幸せは潤のそばにいること』って言ったから傍に置いてくれてるだけ。
さっきさ、俺のために店を出したって言ってたけどそれ違うから」
「なんでだよ。お前の社会復帰のためにこの店オープンしたんじゃないの?」
「逆だよ。この店のオープンが先に決まってて、潤が『俺の傍にいてもいいけどちゃんと自立はしろ』ってこの店任されたの。
だからやりたくて始めた仕事ではないんだよ?
今となっては楽しませて貰ってるけどね。
経営も智のおかげで安定してるし」
「俺のおかげじゃないだろ。ニノのおかげだろ?」
「ふふっ、そんな謙遜しちゃって…
智の作るカクテルのファン多いんだよ?」
謙遜なんかしてない。
この店が流行ってるのはニノの人柄とピアノ演奏のおかげだよ。
この世の中、悩みを抱えてる人間は多い。
ニノはそんな客たちの話し相手になる。
ハッキリとした物言いをするけどその言葉には愛を感じるし、的を射てるから聞いていて小気味いい。
それにニノにはわかってるんだ…相手が今何を求めてるのか。
だからみんなニノと話がしたくてこの店のリピーターになる。
そしてもうひとつ人気なのがニノの気まぐれによって奏でられるピアノ演奏。
その演奏を求めてやって来る客も少なくはない。
本当はもっと演奏できればいいんだろうけどなんせふたりでやってる店。
残念なことにそうそう弾く時間もない。
「と、言うことで明日からその子の面倒よろしくね」
「えっ?俺が見るの?」
「当たり前じゃん。この店には、俺と智しかいないんだから」
「そんなこと言われても、何やらせればいいんだよ」
「とりあえず、グラスでも磨かせておけば?」
「マジか…」
「頼んだよ、先輩」