第1章 プレリュード
《智サイド》
「智、明日からバイトの子がひとり入るから」
閉店後、店の片付けをしている俺に、マスターがそう告げた。
「明日?随分急だな。そんな話出てなかっただろ」
「さっきオーナーから電話があったんだよ」
「潤さんから?」
この店のオーナー『松本潤』
ここに来るのは週に1、2度程度。
本業は会社を経営している社長さんで
この店は、マスターのニノの為に出してやったって話だ。
「そ、潤から…また捨て犬拾ったんだよあの人…
あっ、でも今度のは、なかなかなつかないって言ってたから捨て猫かな?」
ニノが目の前のカウンター席に座り、頬杖をついた。
「へぇ~、毎度毎度よくやるねぇ。お前嫌にならないの?」
「なんで?」
「恋人が、自分以外の人間抱いてんだろ?」
「正確には恋人じゃないから…
それに、そんな潤を好きになったんだから俺からは何も言えないよ…」
そう言えばニノも…
「…そっか…それにしても恋人でもないのに店出してくれるって
金持ちのやることはわからんねぇ」
「あの人は博愛主義者だから…
みんなに幸せになってもらいたいんだよ。
幸せになって、自分の元から巣立たせるのがあの人のやりたいことだから」
「でも、全員身体の関係持ってんだろ?」
「手元にいるときは本気で愛してるからね…
でもそれぞれ生きる道を見つけた時には、笑顔で別れを告げられ送り出される。
みんな潤に恩を感じているからすんなり別れを受け入れるしね。
それにふたり同時には愛してないんだよ?
ちゃんと独り立ちさせてから、次を拾ってくるんだから」