第4章 子犬のワルツ
「おはよう」
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
先に店に来て、仕入れの伝票をパソコンに入力していたニノ。
「店の掃除してきます」
事務室に置いてある掃除用具を持って、翔が部屋を出ていこうとする。
「お願いね、翔」
翔の背中に向かってニノが声を掛けると、翔は立ち止まり振り返った。
「はい、いってきます」
部屋から翔がいなくなると、ニノは俺を指でチョイチョイと呼んだ。
「なんだ?」
「だいぶなついてきたんじゃない?
雰囲気が柔らかくなってきてる」
「ん、まぁな…
家だともっと力が抜けてて、いい感じだよ」
「へぇ~、思ったよりも早かったな」
「とにかく素直なんだよ…
素直だから、与えられたものをそのまま受け止めちゃうんだろうな」
「でも潤の愛は拒否したんだよ?」
「ん~、それはそうなんだけどさ…
翔は潤さんが他にも『愛してる人』がいるの知ってたから、それが許せなかったんじゃないのかな?」
「潤のことが?自分自身のことが?
それとも俺のことが?」
「あの性格からすると『愛されることが』…だろうな。
自分のせいで誰かが傷つくのが許せない、ってとこかな。
あいつ、心がないんじゃなくて
心はあるんだけど、感情表現の仕方と言うか、感情の開放の仕方を知らないだけなんだよ…
それが出来るようになればな…」
「じゃあ、このまま育ててあげれば?智パパ」
「ん…そのつもり」
「ほぉ~、情が湧いた?」
「なんかさ、やっぱなつかれると可愛いもんだし
何よりも、翔が成長する姿を見るのが嬉しいんだよな」
「もうすっかりパパじゃん」
「あんなデカイ子いる年じゃねぇけど…」
「ははっ、それはそうだね」
「でさ、翔にカクテルの作り方教えてやろうと思うんだけど、どう思う?」
「あぁ、いいんじゃない?
翔が作れるようになれば俺の手が空くし
そうすれば、ピアノの演奏する時間も増えるから。
本当は翔が弾いてくれれば早いんだけどね?」