第4章 子犬のワルツ
《智サイド》
翔が我が家に住むようになって3ヶ月。
元々理解力が高いのと、相当な努力家らしく
そこそこ料理も出来るようになってきた。
「智、これどうするの?」
ベランダで育てたししとうを手にし、翔がキッチンへ入ってきた。
「炒めて味噌で味付ける」
「うん、わかった」
水道でししとうを洗う翔。
俺に対する言葉使いもだいぶ砕けてきた。
俺が『肩が凝るから敬語を止めろ』って言ったせいではあるんだろうけど…
それでも最近は翔自身からも力というか、緊張感が抜けてる感じがする。
ここでの生活が板に付いてきたんだろうな…
この部屋に翔がいることが、至って自然に馴染んでる。
「うんっ、美味しい!」
「無農薬で摘み立てだからな。
旨くないわけがない」
「家庭菜園もしてるなんて、智って主婦みたい」
「ししとうは育てるの簡単だし
酒のツマミにもなるからいいんだよ」
「あ~合いそう」
「それにビタミンCも豊富だしな
美肌には必要な栄養素だぞ?」
「美肌って…でも、なんでも知ってるんだね、智って」
尊敬の眼差しで俺のことを見つめるけど
俺からすればこんなことは一般常識で。
こんなことにさえ感心する翔は、今まで必要な情報しか与えられて来なかったんだろうな、と少し気の毒になる。
当の翔は、はじめの頃こそ戸惑っていたが
教えることにはなんでも興味を持って積極的に学ぼうとする。
俺の話を真剣に聞き、わからないことは質問してくるし。
なんだか子供を育ててる親の気分。
店の仕事も慣れてきたから
今夜あたりニノに相談して、カクテルの作り方を少しずつ教えてみようかな、なんても考えてる。