第4章 子犬のワルツ
「…いいの?」
俺の頭に手を置いたままの智の顔を見上げた。
「何が?」
「俺…ここにいてもいいの?」
智は少し目を見開くと
ふにゃっとした笑顔を見せた。
「いまさら何を言ってんだお前は…」
「イテッ」
頭に置いてあった手が離れたかと思ったら
智の指が俺のおでこを弾いた。
「俺が来いって言ったのになんで居ちゃ駄目なんだよ。
くだらないこと心配してないで、ニノに怒られること心配しろ。
早くしないと、メシ食いそびれるぞ?」
智が茶碗と箸とマグカップを持ってキッチンへ戻っていった。
「そこ片付けたらこっち手伝え、翔」
カウンターから智が俺を呼ぶ。
「はいっ」
俺は急いで片付けを終わらせ、智の隣に立った。
「朝の残りの味噌汁温めて。
あっ、蓋は外せよ?爆発するから」
「え?爆発?」
「そ、爆発。冗談じゃないからな?
マジでやっちゃダメなやつだぞ?」
「わかりました…」
蓋を外しコンロに火をつけた。
「あぁ、それから…」
「沸騰させるな…でしょ?」
智の方を見てそう言うと、智はニヤッと笑い俺の頭を撫でた。
「正解」
智が俺の頭を撫でるたびに、胸の奥がムズムズしてくすぐったく感じるんだけど
それもまた心地良くて…
智の傍に居れば、いつか俺も『心』を見つけられるんじゃないかって…
もしかすると幸せを知ることが出来るんじゃないかって…
そんな淡い期待を持ってしまってる自分に驚いた。