第3章 春の歌
《智サイド》
「ありがとうございました」
俺の住むマンションに着き
翔とふたり、布団を抱えるように持ち、車内のふたりに向かって挨拶をした。
「こちらこそありがとう、智。
翔のことよろしくな」
「はい」
「それじゃ、おやすみ」
「ふたりともまた明日ね」
「ありがとうございました、おやすみなさい」
翔が挨拶をすると、ゆっくりと走り出した車。
それを見送り翔に声を掛けた。
「翔、重いだろ?早く家に入ろう」
「すみません、智の方が重いですよね」
翔が持っているのは掛け布団と枕。
俺が持っているのは敷き布団。
どちらかと言えば俺の方が重いけど、それほど重くは感じない。
ただ翔は、普段から重いものを持った生活をしてないんじゃないかと思って、そう言っただけなんだけど。
「こんなの重い内に入らないよ。
お前みたいな華奢な奴と一緒にするな」
「俺、そんな華奢じゃないです」
「そうか?じゃあやっぱりまともなメシ食ってないせいだな。
蒼白い顔して、いつ倒れてもおかしくない様に見えるぞ」
「そんな弱くないです。力だってそこそこありますよ」
「はいはい、いいからもう行くぞ。
布団抱えたまま、外で言い合う必要はない」
「あ、はい」
歩き出した俺の後を、慌てたようについてきた。
こういうとこは素直なんだよなぁ。
昨日今日で、だいぶ慣れてきたみたいだし
さっきは笑顔見せたみたいだし…
前の席に座ってた俺は、残念ながら見逃したけど
それでも、こいつが少しずつ心を許して来てることが嬉しい。
捨て猫もちゃんと育ててやれば、可愛い飼い猫になれるんだよな。