第3章 春の歌
「着いたぞ」
潤の声でニノさんが窓の外を見た。
「えっ⁉これ?」
「そうです」
「これは凄い…」
「近所迷惑になるから、大勢で行かない方がいいですね。
俺と翔で、必要な物だけ取ってきます」
「ああ…よろしく頼むよ、智」
「はい。行くぞ翔」
車を降りて、智と一緒に部屋に向かった。
静かに部屋に入り、畳んでおいた布団を智と分けて持つ。
「他に必要な物ないか?」
「大丈夫です…
何も持たずに家を出て、そのあとは服を数枚買ったくらいですから。
昼間、智の家に運んだ物さえあれば生活出来ます」
「なら行くか…
後は潤さんに頼んで処分して貰おう」
「はい」
俺たちの姿を見つけた運転手が、後ろのトランクを開けてくれた。
布団をトランクに積み車中に戻る。
「お帰り、本当に布団だけなんだ」
ニノさんが驚いた顔をした。
「ええ、残りは冷蔵庫と小さなテーブルだけなので」
「潤さん、後でいいんでそれ処分して貰えますか?」
「わかった…もうここに来る必要は無いんだろ?
だったら鍵預かるよ。解約もしないとな」
潤が俺に向かって手のひらを伸ばした。
俺はその手にアパートの鍵を乗せた。
「うん。ありがとう、潤」
「何か引っ越し祝いプレゼントするけど、何がいい?」
そう言ってくれた潤に、俺は首を横に振った。
「何もいらない…もう十分貰ってるから」
新たな生活を得られたから…
これ以上望むものなんて何もない。
「そうか…」
納得したように静かに微笑む潤。
俺からするとあなたの行動はちょっと、というかだいぶ変わってると思う…
だけど、そんなあなたがいたから、俺は路頭に迷わず済んだんだ…
だから見つけてくれて、拾ってくれただけでもう十分。