第3章 春の歌
その日の閉店後、早速潤がやって来た。
「お疲れさま」
潤が俺たちに声を掛ける。
「すみません、潤さん。
わざわざ来てもらって」
智が、潤にペコリと頭を下げた。
「いや、全然構わんよ。
今日もカズの迎えに来るつもりだったし」
「そうだったんですね」
潤は俺の前に立つと、肩に手を置いた。
「良かったな、翔…お前の住む場所が見つかって」
「うん…智が家に来いって言ってくれたから
世話になることにした」
「ああ、カズから聞いたよ。
でもお前、俺のところは出ていったのに
智のところならいいんだな」
潤のマンション…声を掛けられてから一週間くらい住んでた。
客室を与えられ、プライベートは守られてたけど
潤の家は何だか落ち着けなくて…
だから『望みは何でも聞いてやる』という潤の言葉に甘えて、あのアパートを借りて貰った。
それに比べ智の家は、昼間ちょっと居ただけだけど、とても居心地が良くて…
ここでなら暫くの間、お世話になっても大丈夫だな、って思えたんだ。
「なに潤、ヤキモチ妬いてんの?」
ニノさんがニヤッと笑うと、潤は苦笑した。
「そんなんじゃないよ。
ただ俺が幸せにしてやりたいと思って声を掛けたのに
幸せにしてやれないまま、他の人にそのあとを委ねるなんて初めてのことだからさ。
俺じゃ駄目だったんだなって…
俺なら誰のことも幸せにしてやれるなんて、傲慢な考え方だったんだな」
「潤、何度も言ってるけど感謝はしてるんだよ?
あの家から抜け出せたこと…
それと、ここで働かせて貰えたこと」
潤の『愛』は理解できなかったけど
智とニノさんとの出会いをくれたことは本当に感謝してるんだ。
「そうか、なら良かった…」
「うん、ありがとう…潤」
潤が本気で俺が幸せになれるようにと考えてくれていたことはわかったから。
だから素直にお礼の言葉が言えた。