第3章 春の歌
「でも…そんな迷惑掛けられません…」
「迷惑じゃねぇって…俺がそうしたいだけなんだから」
そうは言われても、まだ出会ってからたった2日しか経ってない人にそんな迷惑掛けられない。
「ここ借りてるの潤さんなんだろ?
だったらここも引き払った方が良くないか?
潤さんから離れるつもりなら、中途半端でいるよりも、全て清算した方がいいだろ?」
そうだよな…
潤に世話になるのは、もう止めるつもりなのに、この場所は潤に借りて貰ってるんだ。
でもそれならそれで、別の場所を借りればいいだけなんじゃ…
「他のところ借りようとかは無しだぞ?
お前、まだ金貯まってないだろ?
そんな奴に、家なんて貸してくれる所なんてないからな?
このままここに住むのも無し…
毎日こんな遠くまで送ってきて、包丁もまな板もないようなところで朝メシ作るのヤダし」
思ってることを先に言われてしまった。
それに毎日送って来るなんて。
「あの…」
「あぁ、『送らなくていい』も無しな。
昨夜思ったけど、あんな暗闇にひとりで帰らせるようなこと出来ないから」
今度こそ返す言葉がなくなってしまった。
「俺に迷惑掛けたくないと思うなら
俺のところに来るのが一番いい方法だと思うけど?どう?」
智が確認するように俺の顔を覗き見る。
俺は首を縦に振るしか出来なかった…
だって、智が作る味噌汁をまた食べたいと思ってしまったから。
一番引っ掛かってた『智へ迷惑を掛ける』という点も
智にとってもそれが『一番いい方法』だと言われたらもう断る理由はない。
「よろしくお願いします…」
「おぅ、任せとけ」
笑顔の智が、俺の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
なんだろう…さっき味噌汁を食べた時と同じように
俺の体の中が、温かい何かで満たされていく感じがした。