第3章 春の歌
アパートに戻ると智はキッチンに立った。
買い物袋から次々と買ってきた物を取り出す。
「翔、鍋貸して」
「あっ、はい」
俺は流し台の下から、まだ数回しか使ったことのない鍋を出し智に差し出した。
「サンキュー」
智は笑顔で受け取ると、水と粉を入れ火にかけた。
「何をやるんです?」
「ん?朝メシ食うんだよ」
「何か作るんですか?」
「日本人の朝メシは米だって言っただろ?米と言えば味噌汁がないとな?」
「智が作るんですか?」
「他に誰が作るんだよ。お前料理出来ないんだろ?」
「ええ、まぁ…」
「と言っても材料も調理器具もないから、粉末の出汁と豆腐と乾燥ワカメ
あと薬味で売ってたネギだけで作るから、料理って言えるほどのもんでもねぇけどな」
ニカッと笑う智。
俺からすればそれだけでも十分料理だ。
包丁が無いのに、豆腐をどうやって切るのかと思っていたら
さっきコンビニで貰ったレシートを取り出し、両端を掴むと器用に豆腐に切れ目を入れていく。
沸騰したお湯に豆腐、少し時間を置いてからワカメとネギを入れて火を弱めると味噌を溶かした。
「ほら、もう出来た。
味噌は沸騰させると味が落ちるから、沸騰させちゃ駄目だぞ?」
そんなアドバイスをしてくれる智。
人生初だな…料理を教わるなんて。
お玉も無いから、鍋を傾けコンビニで購入した器に味噌汁を移す。
「そっちに運んで食おう。その袋持ってきて」
残りの食料が入った袋を手にし、智のあとをついて行った。
小さいテーブルに出される食料。
「レトルトの白米と納豆、漬物。それに卵焼き。
いやぁ、今のコンビニって何でも売ってるよな。
これじゃ料理出来なくてもメシは食えるわな」
「こんなに買ったことはないですけどね」
「なに?お前ほんとに弁当だけとかしか食わないの?」
「それだけあれば十分ですから」
「そっか…ま、いいや。
さあ、食おうぜ、腹へった」
「はい…」