第2章 幻想曲
閉店間際、珍しく二日続けて潤さんが来店した。
「いらっしゃいませ、何にします?」
いつもの席に座る潤さんにオーダーを聞いた。
「あぁ、今日は酒はいい…もうすぐ閉店の時間だろ?」
「ええ…まぁ…」
今日も翔の様子を見に来たのか?
翔のことはなんとかしてやりたいとは思うけど、あまり翔に優しくする姿をニノに見せたくはない。
「潤、いらっしゃい。なに?飲まないの?」
「今日はいいよ」
「そう?あ、翔呼ぼうか?今、中で仕事させてるから」
「いや、大丈夫…特に用はないから。
仕事してるならさせといて」
「うん、わかった」
あれ?翔の様子を見に来たんじゃないんだ。
じゃあ、わざわざ何しに?酒もいらないなんて…
「カズ、ちょっとだけでいいからピアノ弾いてくれない?」
「え?いいけど…昨日も弾いたよね?
今日は違う曲にする?」
「いや、いつもの曲でいい」
「わかった」
ニノはシャツの袖を捲りながらピアノへ向かった。
潤さんの為に演奏する曲はいつものように切なさの中に愛が感じられて…
オープン前に聴いた翔のピアノとは、やはり違って聴こえる。
もし、翔が『心』を知ることが出来たら
あの高い技術に感情が加わったら、一体どんな演奏になるんだろう…
いつか聴くことができるだろうか…翔が奏でる色彩溢れるメロディー。