第12章 波濤を越えて
家に帰ってきてからも口を利いてくれない翔。
メシの用意してる間も、食べてる間も
最初の『いただきます』を言った以降は黙りの状態。
完璧しくじったよなぁ…
「翔、風呂入ろ?」
「ひとりでどうぞ…」
俺に背を向け、やっと聞き取れるくらいの声で冷たい返事が返ってくる。
今はなに言っても聞いてくれないか…
仕方なくひとりで風呂を済ませると、リビングの床に布団が敷いてあった。
「なにこれ?」
「見ての通り布団ですけど…」
立ち尽くす俺の横を通り、翔は風呂場へと歩いて行った。
「…それはわかるけど…」
翔が居なくなったリビングで、ひとり寂しく呟いた。
今日はここで寝るってか?
ベッドを購入して以来、仕舞い込んでおいた布団。
こんなことなら、処分しておけばよかったなぁ。
冷蔵庫から缶ビールを取り出し、ソファーに座って布団とにらめっこ。
翔が出てくるまでに片付けてしまおうか…
でもそんなことしたら、また翔の機嫌を損ねることになりそうだし…
「ん~」
こんなに悩むのいつ以来だろ…翔のことを好きだと気付いた時以来か?
俺の悩み事はいつでも翔絡みなんだな。ってか、俺、基本悩むことないしな。
ニノじゃないけど、翔と出逢ってからほんと変わったと思うよ、俺。
それだけ翔のことが大切なんだ…今だって思いっきり抱きしめたいのに…
「はぁ~」
溜め息を吐きながら項垂れた。