第2章 幻想曲
翌日、店に着くと、中からピアノの音が聴こえてきた。
邪魔をしないように、静かにドアを開け、ニノさんの演奏している後ろ姿を見ていた。
演奏が終わり『ふぅ~』っと息を吐いたニノさん。
「今日の『月光』は、昨日より哀しい音ですね」
ビクッとして、後ろを振り返ったニノさんが、俺の姿を確認して笑った。
「なんだ、翔か…吃驚させるなよ」
「すみません、演奏の邪魔をしたくなかったので…」
ニノさんは、椅子から立ち上がり俺の方へ歩いてきた。
「ピアノやってただけあるね
曲名知ってるんだ」
「有名な曲ですから」
「翔も弾けるの?」
「ええ、まあ、一応…」
「聴かせてくれない?
俺の音、哀しい音だったんでしょ?
今の翔の音色は、どんななの?」
ニノさんの瞳が不安そうに見えた。
昨夜、俺と潤が一緒に帰ったから…きっと俺が、潤に愛されたと思ってる。
俺の弾く音から愛を感じたら、ニノさんはきっと更に哀しむことになる…
でも、そんな心配は必要ないんだ。
「いいですよ…本当なら、もうピアノを弾くつもりは無かったんですけど…お詫びに弾きます」
「お詫び?」
「ええ…ニノさんを哀しませたお詫びです」
俺はピアノの前に行き、大きく深呼吸をした。
椅子に座り姿勢を整える…
ゆっくりと鍵盤の上に指を置くと、目を瞑り息を吸った。
久しぶりに触れるピアノ…
指の動きが少し鈍ってるな…
もうそんなことは、俺にはどうでもいいことなのに
それでも指の動きの衰えを気にする自分に、少し笑えた。