第12章 波濤を越えて
「あ、わりぃ」
「ごめんなさいっ」
「いいんだけどさ、仲直りしたみたいだし。
それにしても、俺もテッキリ彼女は智狙いかと思ってたのに、違かったんだね」
「あぁ、あの子、元々翔のファンなんだって」
「俺のファン?」
「そう。あの優勝した時のコンクール観に行ってたんだってさ。
それで翔が優勝したから、今後リサイタルとかやるんだろうなって楽しみにしてたのに
一切その情報が出ないだろ?」
「そりゃそうだ。プロのピアニストよりも、智を選んだんだから」
「そしたらさ、ネットに、翔がこの店でピアノを弾いてるって載ってたらしくて」
「俺のことがネットに?いったい誰が…」
「あー、それ俺だ」
「ニノさん?なんでそんなこと」
「ほら、その子みたいに翔の演奏を聴きたいって人はいる訳じゃん。
だからね、この店で弾いてるよ、って教えてあげれば皆来るかな?って思って」
「はぁ~、お前さぁ…それ、翔のこと使って来客数増やしたいだけだろ」
「そりゃあねぇ、使えるもんはなんでも使わないと」
全然悪びれないのは、さすがニノと言うべきか…
「…この店はお前がいる限り、一生安泰だよ…」
「ふふっ、誉め言葉として受け取らせてもらうよ」