第12章 波濤を越えて
「おまっ!知ってるのかっ⁉」
「ん~?なんとなくねぇ」
だったら最初から教えろや!って言いたい所だけど
それをこいつに言ったら、絶対教えて貰えなくなる。
取り合えず今は、翔の不機嫌の理由を捜し出さないと。
「で?なんなんだ?翔の不機嫌な理由」
「ヤキモチ…でしょ」
「ヤキモチ?なんで?」
「今日、若いのにひとりで来てた女性のお客様いたでしょ?」
「あぁ…いたな…まだ21才だって言ってた。
音大生なんだってさ」
「そんな話ししたの?
珍しいね、智がそんなことまで話するなんて」
「あ~うん、ちょっとな…」
「やっばりっ!」
「へっ?」
背後からいきなり翔の声が聞こえた。
振り返ると、腕を組んで仁王立ちしている翔。
明らかに顔が怒ってる。
「やっぱりあのお客様のこと気にしてたんだ!」
「やっぱりってなんだよ」
「だって智、スッゴいデレデレしてたもんっ!」
「デレデレ?あのお客さんに?
そんなのするわけないだろ」
「いいや、してたっ!俺、見たもん!
演奏終わって戻ってくる時に、智がスッゴい嬉しそうに笑ってるとこっ!
あんな顔、俺以外に見せないでよっ!」
「あ~、あの時かぁ」
「ほらやっぱりっ!智の浮気者!」
「だから違うって…ちゃんと話を聞け」
「智、若い子の方がいいんだ…」
瞳を潤ませて、今にも泣き出しそうな顔。
「若いって…お前と一つしか変わんねぇじゃん。
21才も22才も俺からしたら一緒だよ」