第12章 波濤を越えて
「ん~、なんだかわからんが翔の機嫌が悪いんだよ」
「翔が?別に悪くないと思うけど」
ニノはカウンターまで来ると、椅子を引き座った。
「お前とお客様にはな…」
「それって智にだけ機嫌悪いってこと?」
「ん…」
「ナニやらかしたの?」
「だからそれがわからねぇんだよ。聞いても教えてくれないし」
「とうとう愛想つかされたんだ」
「とうとうってなんだよ…俺、翔に嫌われるようなことしてねぇぞ?」
「前々から言ってるじゃん、束縛しすぎじゃない?って。
翔も鬱陶しくなってきたんじゃないの?」
「まさか…」
…でもないのか?昨夜も相当しつこくしたしなぁ…でもあいつだって悦んでた…ハズ。
「営業前のピアノのレッスンだってさ、ずっと付きっきりじゃん。邪魔なんじゃないの?」
「邪魔⁉俺が⁉」
「だって翔がピアノ弾いてる間、腰に腕回してるよね?」
あ、バレてたんだ…ニノがいない時だけしてるつもりだったのに。
「今まで嫌がったことないぞ?」
「言わなかっただけかも知れないじゃん」
「でも営業中にピアノ弾きに行くまではなんともなかった。
そんな思い出したかのように、急に不機嫌になることってあるのか?」
「ないだろうね…特に翔に限っては。
ピアノ弾いてるときは集中してるだろうから、他の事を考えるなんてことしないと思うし」
「だろっ⁉ほんと全くわかんねぇんだよ」
「ははっ…必死だな、智」
「悪いか!」
「悪くなんてないさ。
それだけ翔のこと大切に思ってる証拠だろうしね。
そんな智に、しょうがないから教えてやるよ」
「何を?」
「翔が不機嫌な理由」
ニノがニヤっと笑った。