第12章 波濤を越えて
「おい、翔…」
「なに…」
「『なに』じゃなくて、なんで怒ってんだってさっきから聞いてんだろ?」
「怒ってなんかないよ。智が勝手にそう思ってるだけだろ」
そう思ってるだけって…どう見たって怒ってるじゃねぇかよ。
さっきから声を掛けてもチラリともこっち見ねぇんだから…
営業時間が終わり、今は店内を片付け中。
営業中に急に不機嫌になった翔…さすがにお客様の前で理由は聞けないから、ずっと気になりつつも聞けずにいた。
様子を見ててもニノやお客様の前では機嫌悪くはないんだ。
俺に対してだけ、いかにも怒ってます、って態度をとる。
相葉さんが来たときなんか、これ見よがしに笑顔振り撒いてたし…あれ、絶対わざとだよな?
俺に見せつけてるだけだろ。
相葉さんも嬉しそうにご機嫌で話してるし…翔は俺の恋人だぞ!
だから営業が終った時点で、即行翔を問い詰めた。
「なんで怒ってんの?」
「怒ってないし…」
それからはずっとこの繰り返し…
いくら聞いても答えてくれねぇし。
仕方ない、早く片付け終わらせて、家でゆっくり話すか…
しかしまぁ、こんなに翔がへそを曲げるのも珍しい…
一体何に対してご立腹なのか。
「はぁ~…」
「なに、どうしたの?そんな大きな溜め息吐いて」
カウンターでグラスを磨いていたのに、フロアーのテーブルを拭いていたニノにも聞こえるくらいの溜め息を吐いてしまった。