第11章 家路
話しを聞くと、智は俺がコンクールで優勝したらここには戻って来ないと思ったみたい。
逆なのに…ここに戻ってくるために俺は半年間必死に練習したんだ。
一刻も早く結果を出して、母さんと一緒に素直に優勝を喜こぼう。
そうして親孝行が出来たら、智の元へ戻って来ようと決めていた。
コンクールの数日前、今の俺の思いを母さんに伝えた。
『俺の今の夢は、智の傍で智の為にピアノを弾き続けることなんだ』
今、俺が一番大切なのは智だから…それは何があっても譲れない。
智との事は、母さんには再会して直ぐに話した。
驚かれたけど、その時は、さほど何も言われずに済んだ。
でも、将来の事となると別問題だから、反対される事を覚悟し、少し緊張した。
『そう…』
母さんは少し視線を伏せ、その後優しく微笑むと、俺に視線を戻し俺の事を確りと見つめた。
『あなたの夢、叶えなさい…』
『いいの?』
『いいのも何もないでしょ?
親なんてね、子供が幸せになってくれることが『夢』みたいなものなんだから。
あなたが夢を叶えることで幸せになれるなら、反対する必要なんてないわよ。
大体、今のあなたの演奏は、大野さんと出逢えたから得られたんでしょ?
だったら帰りなさい…
あなたが幸せになれる場所へ…』
『…ありがと、母さん…』
俺がお礼を言うと、母さんは凄く嬉しそうな笑顔を見せてくれたんだ。
『やっとあなたの声を聞けた気がする』
もしかすると、これが本当の意味での俺の親孝行だったのかな…
俺の気持ちを母さんに伝える事が…