第11章 家路
「毎日智のこと思って弾いてたんだよ?
『月の光』は俺にとって智そのものだから…」
「俺が『月の光』?」
「そう…智は月の光みたいに、いつも優しく包み込んでくれるから…
弾く度に智に抱かれてた」
幸せそうな微笑みを浮かべる翔…
離れている間も、俺は常にお前の傍に居たんだな。
「だからね、松岡さんにお願いして今日のチケット届けて貰ったの」
「え?翔が?」
「うん。智に絶対聴いて貰いたいし
智が居てくれたら、最高の演奏が出来ると思ったから」
そうだったのか…
でも松岡さんとしたら、本気で翔に世界へ行って貰いたかったんだろうな。
「あ…じゃあもしかして演奏前に俺と目が合ったの気がついてた?」
「そんなの当たり前じゃん…」
「当たり前なのか?あの広い会場で?」
「どんなに広くても…俺は智を見つけること出来るよ?
智は?俺のこと見つけてくれないの?」
ベッドの上で不安そうに俺を見上げる翔。
「いいや…見つけられるよ」
この広い世界で、奇跡的に巡り逢えた俺だけの星…
こんなにも美しく輝く星を、見つけられないはずがない。
微笑みを浮かべた翔が両手を広げた。
ベッドの縁に座ると、翔の腕が俺をギュッと抱きしめた。
「ふふっ、本物の智だ…」
「偽者の智っているのかよ…」
「智、帰ってくるの遅いんだもん。
だから代わりに枕抱きしめてたら、そのまま眠っちゃった」
「代わりに枕抱きしめて寝るって、ほんとお子ちゃまだな…」
「だって早く智に触れたかったんだよ」
「俺に触れるだけでいいのか?」
「やだ…」
「何して欲しい?
コンクールで優勝したお祝いだ…
お前が望むこと、何でもしてやるよ」
「じゃあギュッと抱きしめて…」
「おう…」
両腕を翔の背中に回し、包み込むように抱きしめた。