第10章 別れの曲
「それはどういう…」
「明日のコンクールに優勝すれば、翔はプロのピアニストとして活動の場を広げるでしょう。
今の翔なら、世界で活躍するピアニストになる。
そうなると翔はここへは戻ってこない…
いや、来られなくなるんです。
だからあなたには、ちゃんと納得して翔を見送ってやって欲しい」
翔が世界へ?まさか、そこまで…
「信じられないかも知れませんが、それほどまでにこの半年の翔の成長は凄まじいと言うことです。
元々持っていた技術にも磨きがかかったし
何よりも演奏に、魂が込められるようになった。
それはあなたのお陰だと思うので、本当ならこんなお願いはしたくないのですが…
やはりあの腕を、この小さな店だけで埋もれさせたくはない」
「お話はわかりました…
でもまだ結果が出た訳じゃない…
取り合えず明日のコンクールは観に行かせて貰います」
「ありがとうございます」
松岡さんが深く頭を下げた。
翔…お前にはそれほどまでの力が隠されていたのか…
いつか俺の元に戻って来るものだと、ずっと待っていた…
でも、それは望んではいけない事なのか…
お前の活躍を望むなら、お前に『ここに帰ってこい』なんて言っちゃいけないんだ。
俺とお前の出逢いは、ずっと頑張ってきたお前の為に…お前が一流のピアニストになるために
星が与えてくれた出逢いなのかもしれないな。