第10章 別れの曲
店のドアが開いた。
「いらっ…あ、潤っ」
噂をすればってやつか…
しかもニノ、超笑顔じゃねぇかよ…
何がベッタリで、だよ。いそいそと出迎えに行きやがって。
俺に気を使ってくれてたのかな…
翔がいなくて寂しい俺に、幸せ自慢なんか出来ないもんな。
でも本人を目の前にしたら、そんなことも忘れちまうぐらい嬉しいんだろ?
「こんばんは、潤さん」
いつもの席に着く潤さん。
「お疲れ、智…」
「何飲みます?」
「まずはジントニック頼む」
「畏まりました…」
「カズは『月光』頼む」
「うん」
嬉しそうに笑顔で答えちゃってまぁ…
さっきまでの話、潤さんに聞かせてやりてぇよ。
「最近どうだ?」
「特に変わりありませんよ」
カクテルを作りながら潤さんの問いに答えた。
「そうか…」
それ以上は何も聞いてこない…
ニノからある程度話は聞いてるだろうし。
潤さんも心配してくれてんだろうな。
「お待たせしました」
潤さんの前にカクテルを置いた。
「ありがとう…」
潤さんはカクテルに口を付けながら、ピアノを弾くニノの後ろ姿を、愛しそうに見つめた。
再び店のドアが開くと、次に姿を見せたのは…
「松岡さん」
「どうも…お久しぶりです」
松岡さんがこの店に来るのも、翔がここから去った日以来。
「いらっしゃいませ…
どうぞ、こちらの席へ」
潤さんの席から、ふたつ間を明けた席へ案内した。
「今日はどうかされたんですか?」
「ええ、ちょっと話があって…
でもその前に、オーダーいいですか?」
松岡さんから翔の近況が聞けるかも知れない…
そう思ったら、オーダーよりも先にそんなことを聞いてしまった。
「失礼しました…何にされます?」