第10章 別れの曲
《智サイド》
翔が『実家に行ってくる』と言ってから半年が過ぎた。
あれから翔からの連絡は一度もない。
「翔、どうしてるのかなぁ…」
客のオーダーが止まった時に、ニノがポツリと呟いた。
「ピアノのレッスンだろ」
「寂しくないの?連絡ないんでしょ?」
「サボってた分取り戻すのが大変なんだろ」
「だとしてもさぁ、電話くらいしてきても良くない?」
「してこねぇよ…」
「なんでよ?声くらい聞きたいと思わないの?」
思うに決まってんだろ。
でも、声を聞いたら会いたくなるから…すぐにでも抱きしめたくなるから…
だから俺も、そして翔も連絡をしてこないんだ。
「そのうち連絡よこすだろ。
翔が自分で納得出来たら…」
「それっていつの話よ…」
「そんなの、翔にしかわからねぇよ…」
「はぁ~」
「なんだよ、俺よりお前の方が寂しそうじゃねぇか」
「寂しいのもあるけどさ
お客様からクレームって言うの?『いつになったら翔くん戻ってくるんだ』って煩くて…」
「ははっ、大変だな。
代わりにお前が弾けば良いじゃん」
「俺のピアノじゃ、もう誰も満足してくれないよ」
「潤さんは満足してくれるだろ?」
「あれは特別…」
「『あれ』ってお前…潤さんのこと『あれ』扱いかよ。あんなに大好きオーラ出してたのに」
「今でも大好きだよ?
でもさ、最近ベッタリが酷くて…
家にいると、ずっとくっついてくるんだもん」
「いいことじゃねぇか。それだけ愛されてるんだろ?」
「そうなんだろうけどさ…
潤の愛は皆に分け与えても、十分なくらいに大きいんだろうね。
それを一身に与えられちゃってるから…」
口では面倒くさそうに言ってるけど、顔にやけてんぞ?ほんと素直じゃねぇな…