第9章 愛の夢
「しょ、お?お、前…なにして…」
今度は智が目を見開いて、俺を見つめた。
「智の唇が切れて血が出てるから拭いてあげたんでしょ?
何かおかしい?」
「何かおかしい…って、そりゃ、お前、おかしいだろ…」
瞼をパチパチさせながら、手で唇に触れる智。
「そうしたかったからしただけ…
智だってさっきそうしたでしょ?」
「それはそうだけど、俺はちゃんと理由言ったぞ?」
「だって、ニノさんが思うようにしていいって言ったんだもん」
「ニノが?」
「そう…智のこと好きになっちゃったんだけど、どうしたらいいのかなって相談したんだ。
そしたら、翔は翔の思うようにして大丈夫、あとは智次第だからって」
「翔が、俺のこと…好き?」
「そう…俺が智のこと好きなの」
「俺の手じゃなくて?」
「智の手だけじゃなくて、智の全部が好き」
「マジで?」
「うん、マジで。駄目だった?」
「駄目なわけないだろ!」
大きく息を吐いた智は、体の力が抜けたのか、両手を膝につき中腰になった。
「はぁ~良かったぁ…
これでお前が出ていくってなったら、どうしようかと思った…」
「そんなに心配してくれてたの?」
智の前にしゃがみこみ、智の顔を見上げた。
「当たり前だろ?
俺が最初からお前のこと狙ってたと思われたら、お前人間不信になって
今後、誰のことも信用できなくなるんじゃないかって…」
「ありがと、智…
そんなに考えてくれてたんだね。
なのに俺、全然気がつかなくて…」
「そりゃそうだ…必死に隠してたんだから。
これだけはハッキリ言っとくぞ?
俺がお前を好きになったのは家に来て、一緒に生活始めてからだからな」
「うん。わかってるよ…」
例えそうじゃなかったとしても、唇の傷が智の気持ちの表れだから…
智の想いが本物だってわかるから…もうそれだけで十分だよ。