第9章 愛の夢
《翔サイド》
「翔、すぐ済むからちょっとだけ待ってて?」
「うん…」
智とふたりで消えた女性客。
やっぱりあの人、智のことが好きなんだ…前にニノさんがそう言ってた。
あの人の告白を智は受け入れる?
さっきは迷惑そうにしてたけど、ちゃんと告白されれば気持ちが変わるかも…
壁に寄り掛かり不安な時間を過ごす…
こんなことなら、告白しておけば良かったのかな…
ううん、流石に今の段階でそれは自殺行為だ…
「しょ…」
悶々としていると、智の声が聞こえた。
顔をあげた瞬間、智は追ってきた彼女に腕を掴まれ、彼女の方へと向きを変えた。
その彼女は、智の頬に手を添えると、いきなり俺の目の前で智にキスをした。
それだけでもショックだったのに、彼女は聞き捨てならないことを言った。
「ふんっ!好きな人に告白も出来ない腰抜けのくせに
偉そうに言わないでよ!」
智に好きな人がいる?
そんな話聞いてない…なんで?
なんで俺に黙ってた?
俺に言うと気を使うと思ったから?あの家から出て行くって言うと思ったから?
そんなの当たり前のことでしょ?
智の幸せを俺が邪魔する訳にいかない…
智のことは好きだけど、智に好きな人がいるなら、俺に縛り付けておくなんて出来ないんだ…
「ごめんね、すぐ出ていくから…
もう智に迷惑かけないから…」
「だから、違うって!
なんであの女の言うことは鵜呑みにするのに。俺の言うことは信じないんだよ!」
智がいつもより強い語気で言うから、顔をあげると
智の瞳は俺の瞳をじっと見つめてた…
「さ、とし?」
俺の両肩を掴かんだ智が、ゆっくりと近付いてくる…
動けずにいると、智の唇が俺の唇に重なった…