第9章 愛の夢
振り返ると俯いた翔が立ち尽くしてた。
「ごめんな、待たせて」
翔の前まで行くと翔の肩に手を置いた。
「翔?帰ろ?」
俯いたまま首を横に振る。
「どうした?」
「俺…邪魔、でしょ?
俺、あの家にいない方がいいんでしょ?」
「なにくだらないこと言ってんだよ」
「だっ、て…智…好きな人、いるのに…
俺がいるから…俺の為に時間使っちゃって
恋人作る時間もないんでしょ?」
あの迷惑女の発言のせいか…
「そんなことないよ」
「でも…告白も出来ないくせにって…
智ならすぐに恋人作れるのに…」
「告白は出来ないんじゃなくて、わざとしないの。
今はするタイミングじゃないんだよ」
「俺が独り立ち出来ないからでしょ?
ごめんね、すぐ出ていくから…
もう智に迷惑かけないから…」
「だから、違うって!
なんで、あの女の言うことは鵜呑みにするのに、俺の言うことは信じないんだよ!」
俺が強めに言うと、漸く顔をあげた翔。
その目には、今にも溢れそうなほど涙が浮かんでる…
さっきの女とは全く別物の純真な瞳と涙。
こんなに綺麗なモノを間近で見てたら、さっきのニセモノの涙になんかに騙されるわけがない。
この世で一番綺麗な瞳に、この世で一番綺麗な涙を浮かべる翔…
「さ、とし?」
両手で翔の両肩を掴み、その瞳に吸い寄せられように近付いていく…
この世で一番愛おしい人の唇に、そっと唇を押し当てた。