第9章 愛の夢
「兎に角、俺はあなたと付き合えないし、あなたを家に連れて行くこともしません。
家には同居人がいるんで」
「同居人?女性ですか?」
「男性です」
「だったら別に構いませんよ?」
何が構わないんだよ…
アンタが構わなくても俺は構うわ…話しててもらちが明かない。
「もう失礼しますね…気を付けて帰ってください」
彼女を押し退け歩き出した。
「待って!」
彼女の呼び止める声を無視して歩き続けた。
翔を待たせてるんだ、これ以上付き合えるか。
店の近くまで戻ってくると、壁に寄り掛かってる翔の姿が見えた。
「しょ…」
「待ってってば!」
翔を呼ぼうと声を出し、それに気がついた翔が顔をあげるのと同時に後ろから腕が掴まれ、勢いよく引かれた。
その勢いで振り向かされた俺は、彼女に文句を言うため彼女を見下ろすと、両頬を彼女の手に挟まれた。
「なに?」
そのまま彼女は背伸びをするように、俺の唇に唇を合わせてきた。
あまりの衝撃に動けなくなる俺…
おとなしくなった俺を、肯定の意味と捉えたのか、舌を差し込もうとしてくる彼女。
「やめろっ!」
思わず彼女を突き飛ばした。
転びはしなかったが、後ろによろけた彼女は俺を睨みつけた。
「なによ!ここまでしてあげたのに、まだ拒否するの?」
「誰もこんなこと望んでないだろ!
いい加減迷惑だって気が付けよ!」
俺は手の甲で唇を拭った。
「ふんっ!好きな人に告白も出来ない腰抜けのくせに、偉そうに言わないでよっ!
あ~もう最悪っ!こんな人にキスするなんて!」
捨て台詞を吐いて、漸く立ち去った彼女…最悪はどっちだよ。