第9章 愛の夢
「お疲れ、気を付けて帰ってね」
ニノが着替えを終えた俺たちに声を掛けた。
「お疲れさまでした」
「なに?まだ帰れないの?」
「ううん。今日は潤が迎えに来てくれるって、今連絡が入った」
「そうなんだ。じゃあ、お先な」
「うん。また明日」
「おやすみなさい…」
翔と店を出て歩き出すと、突然建物の陰から何かが飛び出してきた。
「うわっ!」
翔が驚き、俺の腕を掴んだ。
俺も翔のことを守るように、腕の中に翔を抱き寄せたんだけど…
「あれ?君…」
昼間ニノが言っていた厄介な方の女性客。
「こんばんは、大野さん」
ニコッと笑う顔が、何故か不気味に見えた。
こんな時間に物陰に潜んで待ってるなんて、悪い予感しかしない。
「こんばんは…どうかされたんですか?
今日はもう閉店してしまいましたけど」
翔を腕から解放し、相手に向かい合うとあえて冷静に話しかけた。
「大野さんを待ってました」
ニコニコと笑う彼女に、嫌悪感さえ感じる。
店が閉まってから1時間近く経ってるんだぞ?
こんな時間まで女性が一人で待ち伏せしてるなんて、ちょっと怖くないか?
「何かご用ですか?用があるなら、こんなところで待ってないで、店に来てくれれば良かったのに」
「あ…えっとぉ、大野さんとふたりきりでお話ししたいんですけどぉ」
翔を邪魔者扱いするかのように、チラチラと見るその目も気に入らない。
「そうなんですか…でもすみません
俺、お客様とは、店以外の場所で会わないんで。失礼しますね」
翔の腕を取り歩き出した俺のもう片方の腕を掴んだ彼女。
「え⁉ちょっと待って!
こんな時間まで待たせておいてそれで終わり?」
「だから、店に来てくれれば良かったじゃないですか。
急にこんな風に待たれてても、相手出来ませんから」