第9章 愛の夢
「ごめんね、翔。練習の邪魔しちゃったね」
「いいえ、もうそろそろ開店準備しないと…」
「うん。よろしくね」
翔はピアノを片付けると、掃除用具を取りに事務所に行った。
「なぁ、俺って鈍いのか?」
「激ニブでしょ」
「どの辺が?」
「カウンター席に座る二人組の女性客
あれ本気で智のこと狙ってるよ?
気が付いてる?」
「え?最近良く来る、ロングヘアーとショートヘアーのふたり?」
「そう…最近は、ほぼ週一で来てるあのふたり」
「マジで⁉」
「ほら、鈍い。
あんなにわかりやすくアプローチされてるのに…」
ニノが苦笑いした。
マジでか…ただ酒好きな女たちだとばかり…
「でもいいんじゃないの?智はそれで…」
「なんでだよ」
「智狙いの客、相当数いるよ?
それイチイチ気にして相手してたら、大変でしょ」
「食事の誘いは断ってるぞ?」
「食事の誘いは簡単に断れても、告白は別物だよ。
皆が皆、相葉さんみたいにすぐには引いてくれないから」
最近告白なんてされてないし、そんな心配はないと思うんだけど…
「あのさ…」
「なに?」
「俺、ほんとにあのふたりからそんな目で見られてんの?」
「あのふたりだけじゃないけど
特にあのふたりはわかりやすいよね」
「そっか…ふたりとも?」
「ん~、ふたりともだけど、危険なのはショートカットの大人しそうな方かな」
「なんで?」
「ああいう子は本気になると一途だから…
周りが見えなくなって、自己中な考え方しか出来なくなる。
相手がどう思おうと構わない
自分のモノにしたくて、どんな手を使ってくるかわからないタイプだよ」
「こえーこと言うなよ」
「愛は時としては怖いものになるの。
気を付けなよ?
まぁ営業中に、店の中で泣き落とし…なんてマネはしないとは思うけど」
「だよな…」
ニノの言ってることは正しかった、と知るのはこの日の仕事終わりだった。