第9章 愛の夢
「あ、やっぱり智来てたんだ」
翔のピアノを聴いてたら後ろからニノの声がした。
「おう、おはよ…」
「おはよう。まだ早くない?」
「ん?ひとりで家に居てもやることないし」
「そんなの今までだって一緒じゃん」
クスクス笑うニノ。
そう言われてしまうと、言い返す言葉がない。
翔が来るまではひとりで家にいたし、だからといって早く出勤するなんてこともしてなかった。
「ひとりでいると寂しいのかな?智ママは」
ニノがニヤニヤ笑う。
コイツはっ!人の気持ちを知ってるくせにっ。
「うるせっ!いいだろ?
翔のピアノを聴きたいから、早く来ただけだよ。悪いかっ」
「悪くないよ。智がいた方が翔のピアノの音もいい音色になるしね」
「そんな差があるもん?」
「あるある。俺、今翔の音が変わったから見に来たんだよ」
「そうなんだ…俺にはそこまでわからん…」
「そりゃそうだよね、智が聴けるのは智の居るときの音だけなんだから」
あ…そうか。俺が聴いてるのは俺が居るときの音か。
「でも最初聴いたときより、ずっと良くなってるでしょ?」
「あぁ、それはわかる」
「智、耳だけは鋭いもんね」
「なんだよ『耳だけ』って」
「あぁ、ごめんごめん…舌も鋭いね」
悪びれずに言うニノ。
耳と舌以外は鈍いってか。
「俺、褒められてんの?貶されてんの?」
「ん?両方…」
当然とばかりに即答するニノ。
俺、鈍いのか…知らなかった…