第8章 カノン
「いきなり?」
「うん。それまで、そんな話したことなかったんだけど、いきなり言われた」
「すぐにオッケーしたの?」
「するわけないだろ?
生活掛かってんだから。
そんな見ず知らずのヤツの誘いに、簡単に乗らないよ」
「じゃあ、どうして?」
「それからは週5で店に来るようになったんだけどさ
だからといって、誘ってくるとかじゃないんだ。
毎回同じ席で、2種類のカクテルを飲んで、黙って帰っていく。
3ヶ月経った時に、いつまでそんなこと続けるのかな、って思って
ついこっちから声掛けちゃったんだよ。
それがニノの作戦だったんだろうけど」
智は当時を思い出したのか、苦笑いをした。
「作戦?」
「そう…俺がニノに興味を持つように
あえて、ニノからは声を掛けて来なかったんだよ」
「で、その作戦にまんまとハマっちゃったんだ」
「そうだな…
それで詳しく話を聞いて
面白いヤツだったから、一緒に働いてもいいかなって思ったんだよ」
「智ってお人好しだね、先が見えない店で働こうなんて」
「ん~、お人好しっていうよりも
コイツとだったら上手くやっていける気がしたんだ」
「勘ってやつ?」
「かもな…でも確信に近い勘だったけどな」
微笑みながらそう言う智を見て、格好いいって思った。
勿論、失敗する可能性はあった…
でも『確信に近い勘』を信じて、自分の進む道を決めたんだ。
失敗したとしても、智は次の道を探すことが出来るんだろうな。
自分で自分の生きる道を探せる…
俺もそうなりたい。
そうなれるように、もっと色んなことを学ばないと。