第8章 カノン
「このままリビングまで運んでやろうか?」
「う、ううん…大丈夫っ。
重いしっ…そ、それに着替えなくっちゃ」
首を横にフルフルと振った。
こんなんで顔の熱が冷めるとは思わないけど、何かせずにはいられない。
「そっか、残念…」
「ありがと、智…もういいよ。ご飯作ろ?」
「そうだな、じゃあ先行ってるな」
「うん…」
俺はパジャマからルームウェアに着替えるけど
智はパジャマじゃなく、Tシャツとスエットで寝てるから、朝は着替えずにいる。
智がそうしてるから俺もそうしようかな、ってチラっと考えたこともあったけど
パジャマはここに来て、智がはじめて買ってくれたものだから、それは止めておいた。
ご飯を食べて洗濯を済ませると、今日はベッドが届くから寝室の片付けをした。
「ベッドは持ってって貰う手続きしたけど
翔が使ってた布団はどうすっかな」
今は部屋の片隅に畳んで置いてあるけど
大きなベッドが入れば邪魔になる。
智の家には他に物が置ける部屋はないし…
「まだそんな使ってないよな?」
「うん。独り暮らしはじめた時に買ったから、半年くらいしか使ってない」
「だよな。処分するのも勿体ないから、収納ケース買うか。
一昨日一緒に買っときゃよかったなぁ…」
「智ってほんと主婦みたい」
「どこが?」
「おばあちゃんの知恵袋って言うの?
なんでも知ってるし」
「なんでもなんて大袈裟だよ
布団ケースなんて常識の範囲だろ」
「俺、知らないもん…」
「お前はお子ちゃまだからな
しょうがないんじゃね」
智がニヤッと笑った。