第8章 カノン
「じゃあ、抱っこ…」
「は?」
抱っこって、あの抱っこ…だよな。
「駄目?」
「いや、駄目じゃないけど、それもないの?」
「赤ちゃんの頃はあるだろうけど、記憶には残ってない…」
「わかったよ、ほら来い」
俺は胡座をかいて両手を広げると、翔を呼んだ。
膝立ちで近づいてきた翔を、ぎゅっと抱きしめた。
「ねぇ、これって抱っこ?」
「え?違うのか?」
「これじゃ抱きしめられてるだけな気がする。
それにこれだったら俺、智に何回もして貰ってるし」
「あ…そうか…抱っこってどうすればいいんだ?」
「ん~、親が子供を抱っこするときは足が着かないからなぁ。
大人同士だと無理なのかな。
智の方が俺より背低いし…」
「悪かったな、低くて」
「あ、ごめん…気にしてた?
悪気は無かったんだけど
でも俺が想像してた抱っこは無理なんだなって思って」
「じゃあ、これならどうだ」
「えっ?」
俺は翔の背中に回していた腕を、翔の脇の下と膝の裏に差し込み掬い上げた。
「うわっ!」
バランスを崩した翔は、慌てて俺の首に腕を回ししがみついた。
「これなら抱っこっぽい?」
すぐ目の前にある翔の顔を見ながら確認する。
「う、うん…そうだ、ね…」
頷く翔の顔は真っ赤に染まってた。