第8章 カノン
「あ…」
体を起こそうとした翔が呟いた。
「どうした?何かあったか?」
「あ、えっと…手…ずっと繋いだままだったんだ…」
「あぁ…そうだな…」
眠りについた時は普通に握ってたんだけど
起きた時には、指と指を絡ませたように繋いでた。
この握り方じゃ、寝ててもほどけないよな
おそらく夜中に翔が握り直したんだろうけど。
「ごめん…」
「え?なにが?」
手を離した翔に、突然謝られてもなんの事やら。
「指しびれてない?」
「指?」
指を軽く動かしてみた。
「大丈夫だけど?」
「そっか…良かった…」
「なんで?」
「だって一晩中握りしめてたら、血流悪くなって痺れそうじゃん」
「寝てるんだから力は抜けてるだろ?」
「だって俺、今握りしめてた…」
「握りしめたのはちょっと前だよ。
俺の目が覚めてからだから」
「そうなんだ…ありがとね」
「なにが?」
今度は突然お礼を言われ、なんの事やら。
「ん?ずっと手繋いでてくれて…
俺さ、両親と手を繋いだりって余りしたことなかったし、友達ともそんなに親しくならなかったからさ
手を繋いで遊んだりしたこともないんだよね。
手を繋ぐって安心出来るっていうか、なんかホッとする」
うっすらと微笑みを浮かべる翔を見て切なくなった…
そんなことさえもしたことないのかよ。
「お前は基本的なことをしないで育ってきたんだな…
よし、わかった。
これからお前がしたかったこと、出来なかったことなんでも言え
俺が叶えてやるから」
「いいの?」
「いいよ…だってその年になって、今さら他の人に頼めないだろ?
どんなことでもいいから、今のうちにやっとけよ。
じゃないと益々経験する機会失うぞ?」
「ありがとう…でも本当にいいの?」
「おう、遠慮しないでなんでも言えよ」