第8章 カノン
翔の手を引きながらベッドに上がった。
「あの、智…もう大丈夫だから、手…離していいよ?」
「そう?翔が離したくなさそうだったから繋いでたんだけど
離していいなら自分から離せよ」
そう言っても、翔は自分から離そうとはしなくて…
「離さないなら、このまま寝るぞ」
翔の手を握りしめたまま、空いてる手でかぶり布団を手繰り寄せ横になった。
翔は何も言わず、布団の中に入り込んできた。
「おやすみ」
「おやすみなさい…」
顔を翔の方へ向け挨拶をした。
翔も俺の方を向いて挨拶をすると、そのまま静かに目を閉じた。
翌日、目が覚めてもふたりの手は繋がれたまま…
翔の体は俺の方を向いて、ピタッと寄り添い
静かに寝息を立てて眠っている。
寝ているときは安心しきった顔してるのになぁ…
起きてると余計な気ばかり遣う。
何がコイツを不安にさせるんだか…
ひとりで生活する術は徐々に身に付いていってるし
自分で収入を得られるようになって、あと数ヵ月もすれば自分で住む場所を借りることも出来るだろう。
万が一、ここから追い出されたって、生きていくには問題はないのに…
上半身を起こし、翔の髪を撫でると翔の顔に笑顔が浮かぶ。
「さ、とし…」
翔が俺の名前を呼び、繋いでる手が強く握られた…
起きたのか?
再び聞こえる翔の寝息…
寝ているときも、お前の中には俺がいる?
だったら嬉しいんだけど…
ニノが言ってたよな
今の翔は俺を一番頼りにしてるって。
翔本人も『母親なら良かった』って言うくらいだから
身近な存在にはなれているんだろう。
もしかすると、翔が俺の機嫌を伺うのは、ここから追い出されることを心配してるんじゃなくて
俺が翔を嫌うことを心配してのことなのか?